応用を指向した人工知能基礎研究
形式と内容-内容指向人工知能研究の勧め-(2002/5/9)の続き。
エンジニアリングへの応用:研究と現場の溝を越えて, 人工知能学会誌, Vol.14, No.3, pp.398-401
というAIの工学的応用に関する座談会の記事を読んだ。今は、「人工知能氷河時代」と言われ、人工知能学会の会員数も以前に比べ減ってきている。この現状を捉えて、今後の人工知能研究のあり方について述べている。そこから心に残った部分の引用。
西田豊明氏
今でも研究スタイルに関する悩みはなかなか消えません。世の中の進歩は加速されるばかりで、役に立つ研究をしようとするとある程度実現可能なことをせざるを得ません。ところが、それでは「大学でなければできないこと」を研究しているとは言えません。他方、遠くの目標を設定すると、あまりまわりの役に立たないばかりか、実現不可能なことを言っていると受け止められます。
この前に、企業はどうしても利益に結びつく実用的な研究をせざるを得ず、リスクをおかすような研究はできない。そういうのは、大学に任せるべきだという話が出ている。大学と企業の研究の違いは何か、あるのか?
鷲尾隆氏
AIの何が問題なのでしょうか。1つはAIの過去の宣伝や期待に対する失望だと思います。現状のAIは他の諸理論や諸技術と同じく、工学的に言えば一つの要素技術に過ぎません。もう1つはAIと我々が呼ぶ研究領域の定義が極めて曖昧で、人間の知的機能の中で他の理論や技術でより高い性能で代替できる部分を除いていくと、今のAI以外の理論や技術で実現できない部分は殆ど残らない現実があります。
この2番めの点に関しては、そもそもAIをパターン認識のような要素技術の孵卵器(インキュベータ)だと割り切って捉える方向と、何とかAI固有の核になるような理論や技術を創出していく方向の2通りのやり方が考えられると思います。私としては、AIが孵卵器であることにこそ、その価値と魅力を認めるべきだと思います。
AIが要素技術の大力修氏孵卵器(インキュベータ)だという考え方は、私の大学時代に人工知能の講義を担当されてた上田先生も書かれている。
上田和紀: 人工知能とソフトウェア文化
企業の中でシステム開発を行う場合は、担当する技術者がいかに熱意をもっていようとも、経理部門を説得できなければ実用システムに予算は付きません。通常、経理の人間は技術のことはいくら説明を尽くしても分かりません。信用するのは実績と評判です。現在はAIに逆風が吹いています。学会誌等に載っている成功事例を見せることができれば追い風が得られるのですが、人工知能学会誌には経理部門を納得させるような記事がないのです。
大力修氏
きついことを言うようですが、AIを産業界で使うためには経済原理を無視できません。人間の知能の本質を解明し代行する夢は重要ですが、それを除いた部分で勝負しないとエンジニアリング応用は進みません。夢を唱えて実質が進まないのは悲しいと思います。
疑問。人工知能研究を理論と応用に分けられないのか。例えば、物理は基礎物理と応用物理、数学は純粋数学と応用数学、医学は基礎医学と臨床医学というように分かれている。なぜ人工知能は基礎人工知能と応用人工知能に分かれないのだろう。歴史が浅いのが原因か。分離できない原因があるのか。基礎では実現不可能すぎて研究することがないのか。他の分野との違いは何なのか。