人工知能に関する断創録

このブログでは人工知能のさまざまな分野について調査したことをまとめています(更新停止: 2019年12月31日)

人工知能に関して追究したい三つのテーマ

この日記の最初のエントリが2002年2月21日なので、人工知能の勉強を開始してから大体7年経ったことになる。当初は、はてなダイアリーではなく、研究室のサーバを借りて運用していたのを思い出す。今まで人工知能に関係のあるいろんな分野を勉強・調査・研究してきたわけだが、私が人工知能の分野で本当に面白い!追究したい!と思ったテーマは三つある。このブログの多くの人工知能に関するエントリもその三つに分類できると思う。その三つのテーマとは、

  1. 連想に基づいたデータ記憶方式
  2. 選好を創発するアルゴリズム
  3. しろと言われていないことをさせる方法

である。実際、テーマっていうには抽象的すぎるんだけど(笑)こんな抽象的なテーマじゃ卒論は書けないって怒られちゃいますね。まあ、目指したい方向性っていうぐらいかな。

(1) 連想に基づいたデータ記憶方式

連想記憶は想像と創造の源である。この2つは今のコンピュータで実現できない最たるものとして挙げられている。連想に基づくデータベースがあると何か面白そうか?連想は二つのものごとが似ている・似ていないを判定するメカニズムがその根本にある。というわけで類似検索、類似尺度が必要だし、大量のオブジェクト間の類似性を判定するには、高速類似検索(LSHなど)の研究が重要かな。

さらに、類似検索を行うためにはテキスト、画像、音声などをその数学的表現である特徴ベクトル・モデルに変換する必要がある。そんなわけで、自然言語処理、パターン認識という分野がその基礎的な位置づけにある。自然言語の場合は、オントロジーや意味論に踏み込まないわけにはいかない。人間の類似判定基準などの心理学的な研究、人間の類似判定基準を自動学習する方法、創造の心理学なんかも示唆を与えてくれそう。

連想記憶というのは別に新しいわけではなく、人間の記憶の重要な側面として研究されてきた。たとえば、ニューラルネット分野にはアソシアトロンなんてのがあったっけ。近年では、関連したキーワードやコンテンツをネットワークで可視化する技術も盛んになっている(たとえば、コトバノウチュウとか)。また、大量の文章から単語間の類似度を学習する研究なんかもある。

連想記憶のデータ構造として、グラフ・ネットワークは非常に示唆のあるデータ構造だと思うし、近年の複雑ネットワークの理論も多いに参考になりそう。連想のイメージはネットワークなんだけどノードやエッジが何を表すのかが難しいな。

(2) 選好を創発するメカニズム

これは、目標(ゴール)の自動生成に関わる。人間がゴールを与えるのではなく、「機械が」ゴールをみずから設定するメカニズムのこと。これは、強化学習を研究していたときに「報酬の自動生成」といって一番興味があるテーマだった。目標を自動的に生成するためには、2つの目標を区別してどちらがよいかを決定するメカニズムがその根幹にある。つまり、選好基準を作り出すメカニズムだ。そりゃ、人間に「生存」という選好基準があるように最初に最低限の選好基準は与える必要があるが、それから逸脱した選好基準を自分で自動的に獲得させるにはどうすればよいだろう?これができたら特定のものごとに注視することが可能になり、フレーム問題も解消か?

選好を創発するメカニズムとして人間との相互作用を取り入れた強化学習、シェイピング、オペラント条件付け、初期誘導学習なんかは以前調べていた。また、人間と相互作用を通して学習するHuman Computer Interaction (HCI)、Human Agent Interaction (HAI)は示唆を与えてくれそうな気がする。内発的動機付けのメカニズムなど心理学的側面も面白い。

これと関連する分野として、情報推薦システムや嗜好モデリングは昔から興味があった。ただし、これらは人間の嗜好を機械が学習するのが目的。私がもっとも興味あるのは機械の嗜好を生成する方法だ。まあ、機械の嗜好というのは言葉の綾であって単なる目標の自動生成なんですが。

(3) しろと言われていないことをさせる方法

有限のアルゴリズムで無限の多様性を生成するにはどうしたらよいのか?ゲームAIなんかでは多様性を確保するためにランダムを多用してる。ただ、ランダムは調整しないと単なる無秩序に終わってしまうのでそこが問題。最近、はやりの複雑系の理論は多いに参考になりそう。確率統計・非線形・確率モデル・カオスとかのキーワードを含む分野。今の自分ではちょっと数学が難しすぎる。

このテーマでは、人工生命の研究が根幹にある。人工生命の研究では、創発という概念がある。創発とは、個々の個体のレベルでは、機械的な感覚、反応系に基づいて単純な行動戦略しか取れないのに、それらが多数集まることによって組織的な秩序を持った行動が発現される現象を言う。つまり、個々の個体は有限のしかも簡単なアルゴリズムで記述できるけど、その個体をたくさん集めると何かよくわかんない不思議な動作をすることと言えるかな?たとえば、古典的なところではライフゲームやボイドなどが有名。創発された行動が「しろと言われていないこと」かは議論の余地があるけど、私は「しろと言われていないこと」と認めてよいと思う。ただし、創発にもレベルがあるかな。

創発させる方法はいろいろ提案されている。遺伝的アルゴリズム遺伝的プログラミングなどの進化的手法が有名。最近では、New AIといって身体性を取り入れた手法が有望と言われている。現実世界の混沌をプログラムにうまく取り入れるにはどうすればよいだろう?その他に、自己組織化や自己言及も面白そうなテーマだと思う。

と簡単にキーワードを並べてだらだら書いてきたけど、この三つのテーマも相互にしかも密接に関連している。この三つのテーマが相互作用して創発すると何か面白いブレークスルーが起きそうな気がする。関連エントリ、読んだ本、論文なんかはあとでまとめようかな。