人工知能に関する断創録

このブログでは人工知能のさまざまな分野について調査したことをまとめています(更新停止: 2019年12月31日)

ロボットと自閉症児

人生の教科書[ロボットと生きる]

人生の教科書[ロボットと生きる]

という本にロボットも自閉症児も同じ「弱さ」を持っているというタイトルで面白い記事(著者は渡辺信一氏)が載っていた。内容をちょっとメモッておく。

自閉症という病気は早期幼児期に発症し、対人関係における孤立、言語発達異常、特定の状態や物への固着などを示すという病気らしい(広辞苑)。また、重度の自閉症児は「事前に教えられた状況にしか対応できず、想定外の状況ではうまく行動できない」とあった。

上の括弧で囲んだ状況はロボット開発における問題と同じものだというのがこの著者の指摘である。ロボットも事前にプログラムしておいた行動にしか対処できず、想定外の状況ではうまく行動できないからだ。

自閉症児の教育方法とロボットの開発方法は類似しており、状況ごとに行動を教え込むようなものだそうだ。この著者はそのような方法では自閉症児が「予期せぬ出来事に何とかうまく対応する」ことはできるようにならないと考え、ロボット開発の新しいパラダイムを自閉症児教育に持ち込もうとしている。以下、引用。

私に自閉症児教育の常識を捨て去る決心をさせてくれたのは、1980年代に起こったロボット開発におけるパラダイム・シフトだった。確かにそれ以前は「ロボットを人間に近づけるために、ロボットにさせたいことをひとつひとつプログラムしていく」という、まさに常識的な、障害児に対する訓練パラダイムとまったく同じような手法が、ロボット開発に用いられていた。しかし本当に驚くべきことだが、彼らは80年代に入り、この研究の方向性を180度変えてしまう。「これまでのパラダイムでは、ロボットは人間に近づきえない」ということに気づき始めたのである。そして、具体的な行動をひとつひとつプログラムすることを止め、もっと根本的な法則をロボットにプログラムしようとするようになった。ロボットの「行動」について、ロボット自身に自ら学習させようとし始めたのである。

ロボットと生きる、p.79

自閉症の子供自身の「学び」を大切にする。こんな当たり前のことを、私はロボット開発から改めて気づかされたのである。

(中略)

私たちは、1年後、5年後、そして10年後を考えて、自閉症の子供たちを育てていかなければならない。大切なことは、教えたことがすぐ結果として現れることではない。彼ら自身が自ら「学ぶ力」をつけ、予測せぬ出来事に出会ったときにも、何とかうまく対処できるようになることであろう。

(中略)

自閉症児教育とロボット開発は全く同じ目標に向かって努力していることがわかる。「人間らしく」という目標である。自閉症児教育では、子供たちを感情豊かな人間に育てたいと願い、ロボット開発では、自分自身の意志を持ち、自分自身の判断で行動する鉄腕アトムのようなロボットを作りたいと願っている。自閉症児教育とロボット開発との交差点・・・・・・それは「人間らしさ」なのである。

同上、p.80-81

人間を参考にしてロボットを作るのではなく、ロボットを参考に人間を理解するという例の一つだと思う。