人工知能に関する断創録

このブログでは人工知能のさまざまな分野について調査したことをまとめています(更新停止: 2019年12月31日)

RTは安心を創造するか

早稲田大学で開催された「RTは安心を創造するか」というシンポジウムに行って来た。

最初の講演は、MIT人工知能研究所のR. A. Brooks氏。サブサンプションアーキテクチャーや身体性認知科学の提唱者で人工知能、ロボティクス研究では超有名人(だと思う)。ロボット使用法の現状、高齢化社会に向けてのロボット需要、センサー、マニピュレーター、ビジョンにおける問題点、短中長期的目標などの話だった。

  • IT (1978) = RT (2001) IT(情報技術)の1978年の段階とRT(ロボット技術)の2001年の段階はほぼ等しい。つまり、一般に普及していない段階であり、これから普及が始まる。
  • 6才の子供の手の器用さと2才の子供の物体認識能力を実現できれば、多くの応用が可能になる。

ってところが印象に残った。あと、最後の質問で「アメリカのロボットはギアがむき出しなど日本に比べていかにも機械っぽいですがその点についてどう考えてますか」みたいな質問が出た。それに「ロボットに必要なのは機能だと考えている。日本の今のロボットは主に企業のブランドイメージを高めるために使われている。だから、デザインを重視しているのではないか」と応えていた。実用重視のアメリカ人的な解答で思わず納得してしまった。

次の講演は、P. Dario氏。バイオメディカルロボティクスっていう医療福祉現場で使われるロボットを研究しているらしい。心に残ったのは「ロボットに介護してもらいたいか?」って部分。被検者を集めて実験をしたらしい。使う前は10%の人しかYESと答えなかったが、実際に使った後は43%の人がYESになったと話していた。このことから、ロボットの普及には、

  • 研究者がシーズを作りだすことも必要だが、実用にはユーザとともに開発する姿勢が必要である。
  • ユーザにロボティクスとは何か、どんなことができるのかを説明することが重要である。

と述べていた。ロボットの技術動向(2002/11/9)に「ロボット介護なんてお年寄は嫌がらないのか」と書いたのだがどうやらそうではないらしい。ヘルパーに食事の世話などで迷惑をかけたくない、自分の力、ペースでやりたい、下の処理などまかせたくない、気を使いたくない、プライベートを見られたくない、なんて理由で「人による介護」の方を嫌がる人も少からずいるようだ。ロボットの需要は結構高いのかも。

次の講演は、産総研の谷江和雄氏。冒頭で「30年間ロボットの研究をし、論文を300本近く書いてきたが、社会に役立っているという実感がない。ロボットをどのように利用するかは絶えず考えている。」って話してたのが印象に残った。

2つ面白いと思った。1つめは、産総研で開発しているパロっていうアザラシ型のロボット。かわいさではAIBOの比じゃない。AIBOみたいにメカニカルな外観よりこういったふさふさしているぬいぐるみタイプの方が個人的にはいい。ぬいぐるみの高度化、知能化はかなりいい線だと思う(映画 A.I に出てきた熊のぬいぐるみ最高)。小さいとき猫のぬいぐるみを「手で」動かして遊んでて、これが動いたらなと願ってたことがあった(昔は喘息で動物が飼えなかったから)。ベンチャー立てて販売する予定だそうだが子供向けにかなり売れると思う。値段にもよるが。

2つめは、ユビキタス技術、特にICタグをロボットの実用化に有効に使っていくという部分。ロボットに知識を入れるのは限界がある(人工知能の大問題)。そこで、物側に知識を入れておこうという発想の転換。ICタグを物に埋めこんでロボットは無線でその情報を読み取れるようにしておくという手法。この環境の知能化というのは、Semantic Webなんかもその一種だろう。プログラムで知的な処理をするには限界がある。だったらデータの側を「賢く」しておこうって考え方。面白い。

次の講演は、東大の笠木伸英氏。ロボティクスにおけるエネルギーの面からの話。あんまり興味なかったんだけど、聴いているうちに極めて重大な問題だと気がついた。

氏の話しによると、このままIT、ユビキタス、ロボットが使われるようになるとエネルギー使用量が増大し、環境を悪化させる可能性があるという。統計によると近年、情報部門のエネルギー使用量が増大しているそうだ。情報部門が何を指しているか話してなかったが、たぶんコンピュータだろう。サーバーなんてずっと電源ONだし、コンピュータ使う人が増えれば電力たくさん使うはず。省エネとはかけ離れている。

また、人口増加や発展途上国の問題を考えるとさらに深刻になる。人口増加は抑制できず、発展途上国の人びとが先進国なみの生活を亨受する権利は当然奪えない。できることは「エネルギー使用量を抑える技術」「環境を悪化させないクリーンなエネルギーを作りだす技術」を開発することだと話し、そのための研究を紹介していた。

最後の講演は、東京福祉局の幸田昭一氏。都の福祉担当としてロボティクスに何を求めるかを話していた。

ロボットの応用例として、障害者を対象とした研究は多々あるように感じている。障害者ってそんなにたくさんいるのか?市場の規模としてはどれくらいなのかって疑問があった。

幸田氏の話しでは、東京都の人口1200万人のうち、身体障害者は38万人で3%だという。これを多いとみるか少いとみるかは人によりけりだが、企業は少いと見ているようだ。市場の規模が小さすぎるため障害者向けの製品開発に企業が動かないらしい。少数の「切実なニーズ」があることを理解してほしいと訴えていた。また、Dario氏と同様、ロボティクス研究ではユーザのニーズをよく聞いてほしいと話していた。

全体的に「ロボットを何に使うのか?」が重要な問題点であると感じた。ここらへんは技術うんぬんの話しじゃないので、広く一般からアイデアを募集するなどした方がいいと思った。