人工知能に関する断創録

このブログでは人工知能のさまざまな分野について調査したことをまとめています(更新停止: 2019年12月31日)

感情とは何か

Lazarus: Progress on a cognitive-motivational-relational theory of emotion, American Psychologist, 46, 819-834.

では、感情を次のように分類している。もとは、上の論文だが、岡田さんの論文

岡田:感情に左右される思考, Computer Today, pp.12-18, 2002.

に日本語訳が載っている。あまりにも面白いので忘れないうちに引用。Computer Today(リンク切れ)は、他の雑誌と違って取り上げる内容が毎回面白い。

怒り(Anger)
自分を貶める攻撃。
不安(Anxiety)
不確実な、実在する脅威への直面。
恐怖(Fright)
即時的、具体的、圧倒的な肉体的危機への直面。
罪悪感(Guilt)
道徳的規則に対する違反。
恥(Shame)
自己の理想に応えられないこと。
悲しみ(Sadness)
取り返しのつかない喪失を経験すること。
妬み(Envy)
誰か他人の持っているものを欲しくなること。
嫉妬(Jealousy)
ある人への愛情の喪失・あるいは脅威に対して、第三者に憤慨すること。
嫌悪(Disgust)
我慢できないもの、または考えに近づきすぎること。
幸福(Happiness)
目標実現への進歩。
自尊心(Pride)
価値のあるものや達成についての信頼を得ることによる、自己同一性の強調。
安心(Relief)
目標にあわない悲惨な状態が消失、あるいは、よい方向に変化すること。
願望(Hope)
最悪の事態をおそれながらも、よりよいものへ憧れること。
愛(Love)
愛情への願いあるいは参加。
同情(Compassion)
誰かの苦しみや、助けたいという気持ちによって動かされること。

怒りが自分を貶める攻撃と言う点はちょっとよく分からないが、残りは大体分かる。日本では、感情は「喜怒哀楽」というが、上の表では、楽(ラクスルじゃなくてタノシイの方)がないように思う(喜ぶは幸福に入ると思われる)。他にもこの中でヒトに特有な感情はあるのかなど興味深い点がある。

しかし、ここでの本題は、「感情とは何か」という点。ヒトの進化の過程で感情が淘汰されずに残ったということは、感情には重要な機能があるはずだと考える(まだ進化の過程だからこれからどうなるか分からないが)。では、その機能とは何なのか。その機能の仮説の一つにソマティック・マーカー仮説というのがあるらしい。これは、ヒトが普段の生活で行う考慮すべき選択肢を感情によって大幅にそして瞬時に減らし、限定された数の選択肢について合理的な判断を行うことを可能にしている。というもの(詳しくは、Computer Todayの上の記事参照)。

人工知能にはフレーム問題というのがある。フレーム問題とは、ある状況においてどこまで考慮に入れるべきかが判断できないという問題である。つまり、コンピュータは考慮すべき選択肢を判断できないため、その状況で可能な選択肢をしらみ潰しに調べるしかない(実際はヒューリスティクスを使って探索空間を減らすなどいろいろ研究されているみたいだが)。

もし、ソマティック・マーカー仮説が正しいなら、フレーム問題を解決する機能として感情が使われのかもしれない。しかし、重要なことは、ヒトは感情という制御できない機能を持っているがために時として合理的な判断ができず、誤りを犯してしまう点。ヒトの機能を追求している人工知能には必要かもしれないけれど、一般的なコンピュータにとっては致命的だ。でも、人工知能にとってみても「制御できない」という感情の性質はいいのか悪いのか。